facebook_UP2018.08.19

伽数奇のFairy tale 002_18

ノモンハン空戦からの発想 

第18話 当時の普通は特記されない!プロペラの回転方向


 第17話で触れた堀越さんの9試単戦。

 逆ガル翼試作機のプロペラが気になり各務原中央図書館に行ってきた。

 KHIが昔から市の中心にあった各務原らしく、航空関係の図書は添付写真の一角にまとめられており都合がよい。

 図書館の机付きの席は勉強する若者や、仕合わせに午睡をきめるご同輩に占領されているが、この周辺はこのように土日でも点々と置かれている椅子で、ゆっくりと調べ物や読書ができる。


9試単戦逆ガル翼試作機

 9試単戦逆ガル翼試作機のプロペラが、逆回りであることは複数の写真から確認できた。

 これより前の日本の航空黎明期は、左回りプロペラも少なからず存在しており、そんなに違和感はなかったのかもしれない。だからなのか、そのことを注記したものは見つけられなかった。

 別にそのことが不思議でなければ、普通のことであり人は別段気にとめない。だから、記録にも残らない。

 堀越技師の9試単戦の前に取り組んだ7試艦戦がある。今回気づいたが、これも左回りプロペラだった。やはり特出しでの注釈はされない。(方向は操縦席から見て云う)
 一般的な右回りプロペラは基本的に、離陸や加速には右足の加圧による右ラダー(方向舵)が必要になる。

 プロペラ後流は胴体を右回りに後方に流れる。これは胴体軸にプロペラのない多発機であっても同様だ。流体渦は単独で存在せず連結して落とし前をつけるから。

 この後流は垂直尾翼を左から右に押す。そのため機首は左に回頭しようとし、その修正に右ラダーが必要なのだ。離陸や発艦の写真を観察すれば、多くの場合右ラダーの入力を見つけられる。

 右ラダーの必要な理由はもう一つある。プロペラに流入する空気流の方向である。

 この流入空気の迎え角は、プロペラ軸より左方向に推力を偏するので、右ラダー修正がさらに必要になる。

 ただこちらの割合は小さい。でもこれを説明しなければ機嫌が悪くなる試験官の役人さんや、教官さんがおられるようなので、付言です。Pファクターと云う。

 それで右と左で不都合があるのかと云うことだ。

 初めての左回りプロペラはSF-25 Falkeと云うモーターグライダーだった。

 ヘリコプターの操縦を習うため明野に短期入校していたときのこと。

 うららかな休日、グライダーが明野上空に数機、気持ちよさそうに浮いていた。遊びにいったら、乗りますかって。

 いきなりファルケの操縦桿わたされた。

 離陸しながら、これやっぱりプロペラ逆回りですね、とコメントした。


左回りプロペラのSF-25 Falkeモーターグライダー


 2回目は厚木のTPC学生のとき、下総の実習でYS-11を操縦したとき。

 パイロットは外界を見ながらの制御閉回路(クローズループ)でフィードバックしながら操縦しているので、取り立てての不便はなかった。

 あれやっぱりちょっと違うな、と思うくらいではあった。

 そもそも一般的なヘリコプターは、離陸や加速では左足が必要となる。反対周りのプロペラ機のラダー特性と同じだ。

 環境がよければなんでもない。

 でも視界や視程が制限されたり、急激な、零か百か、のような最大限のオン-オフ操作(制御系ではバンバン制御などとよばれる)が必要な事態では、パイロットのフィードバック制御は期待できず、それは標準仕様の必要を示唆するであろう。

 日本の航空業界はとにかくエンジンに苦労してきた。今もってそうである。

 右だろうが左だろうがすこしでも良さそうなエンジンを試したのだろうと思う。

 往々にして飛行試験は機体ではなくエンジンの評価試験である場合が大変多かったと聞く。

 9試単戦では競争試作の相手側中島のエンジンを使っているのだ。

 今回は(も?)ノモンハンから大脱線!


YS-11も左回りプロペラ


 飛行機のアニメ番組「荒野のコトブキ飛行隊」は飛行シーンがとてもリアルで拍手を送りつつ、一つ離陸シーンについて。

 95式練習機赤とんぼの編隊離陸のキャプチャーを貼る。

 この方向舵はニュートラルだろう。少なくとも右には入っていない。他の機種の離陸も全て方向舵は中立だ。これは現実にはあり得ないことで、舵の動きにこだわった空戦シーンがふんだんなだけに、まことに残念と云うか口惜しい。


「荒野のコトブキ飛行隊」95式練習機赤とんぼの編隊離陸

そしてこれが本物のコルセアの離陸動画。ラダーの当て方を確認ください。
                ↓ 右クリックで別タブで見る方が便利です。

https://www.facebook.com/hishikawaakio/videos/2614664635272986/

この稿、最後の区分は2020.05.04に追加した。


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