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炎の烙印6

 
 
 虎徹が目を覚ましたのは二日後であった。
 思ったより火傷の症状が重度で、ひどい高熱が続いたからだ。
 そして長時間にわたって灼熱の空気を吸いこんだ喉は、腫れあがり気道を塞いで口
からの挿管ができず喉を切開して呼吸器がつけられていた。
 ようやく面会が許された時も人数を制限され、まず始めに家族が案内された。
 母親と娘、兄の3人。
 娘は父親がヒーローだとは知らなかったらしく、少なからずショックを受けているようだ。
 それも無理はない。
 いきなりヒーローだったと聞かされ、次の瞬間には包帯でぐるぐる巻きにされ病院
に横たわっている姿を見せられたのだ。
 虎徹に面会した母親も兄も、幾分疲れたような顔をしている。
 たぶん、知らせを聞いたこの2日まともに寝ていないのだろう。
 待合室に戻ってきた途端、倒れこむように座り込んだ。
 そこへ虎徹の上司であるロイズが挨拶に向かう。
 すぐ隣に担当の医師もいた。
 常に危険と隣り合わせのヒーローには、病院に専用の病棟があったり、通常の労災
よりも手厚い保険が適用されたりと優遇されている。
 もちろん今回の事は労災がきくし、虎徹の実家の地区には施設の整った病院もない
ので、たぶんこのままシュテルンビルトでの治療を勧めているのだろう。
 そしてバーナビー達ヒーローが、ICUに呼ばれた。
 面会といっても、どうやら直接会えるわけではなくガラス越しだった。
 問題が起こらなければ、明日には一般病棟に移れるらしい。
「虎徹さん……」
 思わずバーナビーが、ガラスに張り付くようにして呟いた。
 少し離れた場所にあるベットに、虎徹はぐったりと横たわっている。
 まるでこちらに気がついていないのか、ぼんやりと天井を眺めているように見えた。
 ひょっとしたら薬でぼんやりとしているのかもしれない。
 顔半分が白い包帯で覆われていた。
 虎徹が発見された時、ヒーロースーツの頭部が半分破損していたというから、素顔を
晒していた方を火傷したのだろう。
 明日には直接面会できるらしいが、首につけられた器具のせいで当分の間は喋れない
という。
 もっとも気道の腫れさえ治れば外せるといっていたので一時的のことらしいけれど。
 いつのまにかガラスに縋りついていたらしく、バーナビーはアントニオに呼ばれて
ビクッと顔を上げた。
「大丈夫か?」
 よほど不安そうな顔をしていたのだろう、元気づけるように軽く肩を叩かれた。
「そろそろいこう」
「……は、はい」
 立ち去り難い様子のバーナビーに、アントニオはもう一度虎徹を見やった。
「明日には普通に面会できる。すぐに話せるようにもなるさ」
「……」
 普通に……
 普通に話せるようになって…、
 じゃあ、普通に歩けるようになるには?
 重い足取りで、バーナビーはのろのろと足を運んだ。
 ちゃんと、普通に生活できるようになるには?
 ……どれだけかかるのだろうか。
 ガラス越しの、まるで人形のように動かない虎徹を見てバーナビーは不安になった。
 ほんとうにもとにもどるのだろうか?
 なにより……
 ヒーローに戻れるのだろうか?
 ――僕のせいで、虎徹さんはこんな怪我をしてしまった。
 
 


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