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炎の烙印4

「あたた……」
 正直、終わったと思ったがどうやら生きていたようである。
 己の頑丈さにこれほど感謝したことはない。
 しこたま頭を打ったが、あと痛みを感じるのは左腕くらいである。
 たぶんとっさに腕を上げて頭をかばった為、まっさきに瓦礫にぶつかったようだ。
 この痛み方だと、下手をするとヒビくらい入っているかもしれない。
 ズキズキと断続的に襲う痛みを堪え、虎徹は瓦礫の底からなんとか這い出てきた。
 それにしてもバーナビーはどうなったんだろう。
 虎徹が瓦礫に埋もれれば、助けに動いてもよさそうなものだが。
 もしかしたら、自分と同じように瓦礫に埋まってしまったのか?
 己の想像にぞっとして、慌てて周りを見渡す。
 後ろを見れば、かなり炎が迫ってきていた。
 けれど、
 シェルターの扉が転がっている、そのすぐ横にバーナビーは立っていた。
 それこそ先程から微動だにしていないかのように。
「バニー…?」
 虎徹は相棒の異変に気がついたが、その時シェルターの中から人が転がり出てきた。
「あ、熱い…!」
 防火シェルターの扉が開いたのだから、熱気が一気に流れ込んできたのだろう。
 助けを求めて男が飛び出してきた。
「えっと…、要救助者発見!このまま屋根を破って上に脱出する」
 とりあえず慌てて通信すると、うずくまっている男を抱き上げた。
「おい、バニー!上だ、脱出するぞ」
 もう熱気がそこまで迫っている。
 けれど、バーナビーはまったく反応しない。
 まさか意識を失っているのか?
「バニー聞いているのかっ?…う、ごほっ!」
 声を出すと、熱気が肺に入り込んでくる。
 まずい、さっきの倒壊のときメットを破損したか。
 アーム部分もバキバキに割れている。
 右腕に要救助者を抱えるにしても、ほとんど動かない左腕にバーナビーを抱えるのはちょっと
無理がある。
 あと2分ほどでハンドレットパワーも切れる。
 どちらにしても爆発まで時間の問題だ、とにかく一般人を先に脱出させるしかない。
「くっ……!待ってろよ、バニー」
 虎徹は、天井の底が崩落してきたところを狙って上空へと飛び上がった。
 腕に抱える人物を庇うように、腕と己の上体でもって天井にぶつかった。
 屋根の瓦礫と、柱の瓦礫のつぶてをさんざん浴びて、ようやく抵抗がなくなった時には虎徹
の頑丈なヒーロースーツはズタボロだった。
 斎藤さんに怒られちゃうよ。
 しかし、ここまでめちゃくちゃにぶつかって、原形をとどめているスーツには脱帽である。
 さすがに今日何度ぶつけたかわからない頭部分は、弱い接続部分から顔半分ぱっくりと割れ
てしまったが。
 もっともメットがなければ、ぱっくり割れたのは虎徹の頭だっただろうけれど。
 屋根を突き破り上空に飛び出た虎徹は、まだ火の回ってない屋根へと飛び移り安全な場所を
探した。
 顔を上げた瞬間、白いマントがひらめき小さな風が頬を掠めた。
 スカイハイである。
 虎徹を見つけると、すぐに舞い降りてきた。
「いいところに!助かったぜ、スカイハイ」
「ああ、よかった、無事に救助できたんだね」
 どうやら虎徹達を心配してこちらに回り込んで来ていたのだろう、そんなスカイハイに虎徹は
あいさつもそこそこに大急ぎで救助した男を押しつけた。
「え?なん……」
「悪い、その人頼む。すこし煙を吸ってるから、すぐに手当てを」
「って、どこにいくんだ?」
「バニーがまだ中にいるんだ。すぐに連れてくるから大丈夫!」
「お、おい!タイガー……」
 戸惑ったようなスカイハイの言葉を最後まで聞かず、虎徹は急いで踵を返すと炎の中へと引き
返していった。
 まってろよ、バニーっ!
 先程壊した屋根の穴を、今度は炎を避けながら飛び降りる。
 熱気が渦を巻いて下から吹きあがってきた。
 ヤバいな、これは。
 先程のシェルターが隔壁がわりになっているとはいえ、いつ火薬庫に引火してもおかしくない。
 とにかく、抱えてでもバーナビーを脱出させなくては。
 いくらスーツを着ていても火薬庫を巻き込んだ爆発にどこまで耐えられるかわからないのだ。


 そして、ハンドレットパワーの残り時間は30秒を切っていた。


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