タイバニトップへ

ジェラシーの行方5

 両親の敵を取ったことで、少し余裕が出たのだろう。
 バーナビーは、かなり冷静に己の心を分析顧することができるようになっていた。
 あらためていろいろ考えてみる。
 やはり僕は、無意識に虎徹さんを試していたのだろう。
 なにがあっても僕を見捨てないのだと確信を持ちたかった。
 普通とは違う絆が欲しかったのかもしれない。
 いつも傍にいたかった。
 普通の友人よりも、普通の仲間よりも。
 僕だけが…、普通の存在じゃなければいいと。
 ――そう思いたかったのだ。


 結局、虎徹は再入院となった。
 勝手に表層の傷だけ治して病院を抜け出したことは、あとで医者にコッテリ怒られた。
 なんだか嫌がらせのような注射や薬をたんまり処方されて涙目になっていた。
 同じ大部屋のアントニオ達が、2日ほどで退院した後も居残りのように虎徹だけ取り残されて
しまうという念の入りようだ。
 もっともこれは虎徹の被害妄想で、本当にかなり傷が悪化した結果だったのだが。
 朝は会社の方に出勤していたバーナビーが、虎徹の病室に戻るとそこにはカリーナとネイサン、
アントニオが来ていた。
 この人たち、昨日も来てたのに……
 病室に入るなりバーナビーは大きなため息をついた。
「あなたたちも大概暇ですね」
「ご挨拶ね、ハンサム」
「そっくりそのまま、その言葉返すわよ」
 ネイサンとカリーナは振り向きざまにそう返してきた。
 カリーナなど不満を隠す気もないのか、唇を尖らせてツンと顎を上げる。
「僕はいいんです、バディなんですから」
 即座に切り返すバーナビーの言葉に、カリーナは驚いたように大きな目をパチパチ瞬いた。
 思わずネイサンと顔を見合わせる。
 まるで誇らしげな響きだったからだ。
 数日前なら、バーナビーはバディであることを自慢のように口にしなかったはずだ。
「……なんか、お前の相棒、どうかしたのか?」
「オレが聞きたい……」
 バーナビーとカリーナが火花を散らせているのに逃げ腰になりながら、アントニオが虎徹にそ
っと耳打ちした。
「そこっ!近いっっ!!」
 バーナビーとカリーナ、二人の声がユニゾンした。
「うはっはい!?」
 アントニオが面白いほど飛び上がって虎徹から飛びのいた。
 声が揃ったことが気に入らなかったのか、二人がなんだか静かに睨みあった。
 まったくもうなにやってるんだか。
 虎徹は呆れて開いた口が塞がらなかった。
 再入院した頃からどうもバーナビーの様子がおかしい。
 虎徹への態度はまるで人が違ったかのようだし、もともとヒーロー仲間と和気あいあいとまで
はいかなくてもここまで敵視するような態度は取らなかったはずだ。
 とくにカリーナと仲が悪いような気がする。
「もうみんな帰ってください。こんなに毎日ワイワイされたら虎徹さんが休めません」
「ちょ…、何仕切ってんのよ、あんただって来てるくせに」
「僕は来てるんじゃありません、泊まり込んでるんですよ。ちゃんと許可も取ってあります。パ
ートナーが面倒をみるのはあたりまえですから」
「パ、パパパートナーっ?バディでしょ…、それに泊まりってそんな」
「ああ、言い間違えました、すみません。じゃあ、出てってください。では、また」
 バーナビーの形をしたブルドーザーに一気に全員押しだされたと思ったら、挨拶もそこそこに
目の前でバタン!と扉が閉まった。
 カリーナが完全にぽかん、と放心している。
 追い出された。
「……なんかハンサムったら、タガが外れたっていうか、いきなりデレ期?」
「なんかお前楽しそうだな?」
 アントニオが呆れたように言うのに、うふんとネイサンがそれは嬉しそうにウインクを寄こす。
「あら…、当然よ。これから楽しみね」
「オレはなんだか虎徹が気の毒になってきたよ」
 なにやら放心したようなカリーナを連れて、ネイサンたちは虎徹の病室を後にしたのだった。


「なにも追い返すことないだろう?せっかく来てくれたのに」
 あまりの怒涛の展開についていけなかった虎徹は、アントニオたちが退散したあとでようやく
口を開いた。
 彼らを追い出した恰好のまま、扉を押さえていたバーナビーが、がばっと振り向いた。
 ブーツの踵を鳴らしながらスゴイ勢いで近づいてくる。
 思わず虎徹はのけぞる様な形になった。
「虎徹さんっ!」
「……っへ?」
 真剣な顔が、ずいっと寄せられた。
「虎徹さん、好きですっ!!」
 たぶん、数秒は確実に固まった。
 二人の間に、変な緊張感がピーンと張りめくらされる。
「……はっ!?何?」
「だから、虎徹さんが好きです!」
「あ…、ああ、いや、そうじゃなく…」
 虎徹が驚くのも無理はない、どう考えても脈絡がない。
 いま、そういう流れだったか?と首を傾げたくなるのもわかる。
「お、お前ってあれだな…、0か10か、とかそういう感じだな」
 いいえ、ずっと10でした。
 態度が逆だっただけで……
 バーナビーはこっそり答える。今となってはどうでもいいことだ。
 返事を待っているバーナビーに、虎徹は深くため息をつく。
 ここまでまっすぐ気持ちをぶつけてくるとは思わなかったが、むろん虎徹も満更でもなかった
から「……オレもお前のことは好きだよ」と、するっと言葉が出た。
 言ってから、言葉にすると照れるなと思って苦笑した。
 けれど次の瞬間、
 バーナビーの顔が、ぱああああっと明らかに喜びに輝いた。
 えっ、そんなに?
 ここで虎徹はなにやら自分がとんでもない間違いをしでかしたような気がした。
 戸惑っていると、バーナビーがいきなり抱きついてくる。
「お、おわ!なんだお前、ほんとにいきなりだな…っむぐ?」
 驚いてかわそうとしたおじさんの顔をむりやり自分に向けると、バーナビーは強引に唇を合わ
せた。
 それはもう、目を白黒させて虎徹の身体が硬直した。
 それも、予想の範囲内。
「虎徹さん、勘違いしてるようだからはっきりさせておきます」
 バーナビーは唇を離すと、混乱の極地にあるおじさんに向かって宣言した。
「僕の好きは、こういう好きです」
「っ…、えーーーっ!…んぅ?」
 あまりに大声を出すのでもう一度その唇を塞いでやると、両手で口を押さえて飛びのくように
ベットの上をザカザカとあとずさる。
「そんなに驚かれると心外ですが……」
「だ…、だ、だって、今までそういう要素あったか?お前、めちゃめちゃオレの事嫌ってただろ
うがっ!」
「嫌ってませんよ、ただイライラしただけで」
「いつも文句ばっか言って…っ」
「全体的に思慮がなさすぎるのは事実ですからね、つい」
「もう構うなとか、信じないとかっ、おまえダメ出しばっかだし」
「褒めると調子にのるでしょう?」
 次々憎たらしいことを言いながら、身体は逃げる虎徹を追い詰めていく。
「……、ねえ」
「はい?」
「本当におじさんの事好きなの?」
「大好きです」
 キラキラと笑顔が眩しい。
 おじさん、今どきの若者の感性がわかりません……
 虎徹は、複雑な表情のまま完全にバーナビーの腕の中に収まってしまった。
 取り敢えず、傷が痛いことにしてもう逃げるのはやめにした。
 唇にとどまらず顔から首に至るまで、余すところなく吸われたが、…まあ、今日のところは激
しいスキンシップの延長ということで納得しとこう。
 ど、どうしようかな……

NEXT/BACK

HPTOPへ