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ジェラシーの行方4

 虎徹のジェイク戦はある意味、バーナビーの心配通りの展開になっていた。
 能力が切れているにも関わらず、躍起になってジェイクに挑んでいる。
 常人より鍛えていると言っても生身の人間なのだ。あんな無茶をしたら身体がどうにかなって
しまう。
 やっぱり心配になって見にきたんだ、と皆に言われ相変わらず僕はへそ曲がりなことを言って
しまったが、痛々しくて見ていられない。
 ああ…、虎徹さん、もういいです。
 あとは僕がやります。
 これはもともと僕の戦いだ。
 虎徹さんがこれ以上傷つくことはないんです。
 いつも憎たらしいことばっかり言って、おじさんを罵って、蔑ろにしているのに。
 たぶん虎徹がここまで粘るのは、次に戦うバーナビーの為だろう。
 どうしてあの人は…、
 けれど、それが虎徹さんという人だ。
 バーナビーは意を決して戦いの準備の為、部屋を出た。
 どんなにがんばっても虎徹さんは負けてしまうだろう。
 次は、自分の番だ。
 虎徹と同じ能力のバーナビーも、もしかしたらぜんぜんかなわないかもしれない。
 けれどこの戦いはバーナビーのいわば私怨の部分も大きい、だから命をかける理由がある。
 むろん、虎徹にだってシュテルンビルトの市民の安全のためという理由はあるが、それは虎徹
一人が負うべき責任ではない。
 だからもっと早く降参してもよかったのだ。
 死んでしまったらどうするんですか……
 故郷には、大切な娘さんだって待っているのに。
 バーナビーは静かに出動の時を待った。


 やはり、ジェイクは強い。
 おじさんは重傷で病院に担ぎ込まれたと聞いた。
 だから心配だったのだ。
 あの人は無茶をするから……
 そして僕も、やはりジェイクに一撃たりとも与えることができてない。
 まだハンドレットパワーを使ってはいないが、使ったところで当たらなければ意味がない。
 憎い宿敵に、ただいいようにやられるだけで、時間が過ぎていく。
 もう、どうしたらいいかわからない。
 目の前にいるのに。
 両親を殺した人物が、そこにいるのに。
 ハンドレットパワーを発動したが、やはりかなわなかった。
 知らず涙があふれてくる。
 このまま負けて、むざむざ終わるわけにはいかない。
 絶望の中、
 精も根も付き果てようとしたとき、そっと背を支えてくれた手があった。
 びっくりして飛びのくと、病院にいるはずの虎徹さんが平然と笑って立っていた。
「おじさんっ!?」
 なんでこんなところに、無茶もいいところだ。
「また僕の邪魔をする気ですかっ?!」
 混乱したまま、口は相変わらず小憎たらしいことしか言わない。
 虎徹さんは、なんだかよくわからないジェイクの能力を説明したあと必勝のアイテムとやらを
無理やり僕の手の中に押し込んだ。
 相変わらず、他人の事ばかり心配して……
 こんな危ない所に生身でノコノコとっ!
 心配のあまり、助けなどいらないと拒絶して踵を返したが、ふと今貰った球を見て思わず目を
見開いた。
 真っ赤な血がべっとり付着していたのだ。
 たぶん傷が開いたのだろう。
 あたりまえだ、かなりの重症だったと聞いている。
 振り向くと、虎徹は脇腹を押えて呻いた。
 よく見ると、ひどい顔色である。
 次の瞬間、ジェイクの攻撃によって二人は引き離された。
 下に落とされてすぐ、屋根を仰ぎ見ると虎徹さんがそこに立っていた。
 まっすぐにバーナビーを見詰めている。
 ふらふらな筈なのに、おそらく根性だけで立っているのだ。
 ――もう、やるしかない。
 僕の為に…、いや虎徹さんのことだからシュテルンビルト全市民の為もあるかもしれないが、
ともかく無理をしてここまできてくれた。
 ジェイクを倒す手掛かりを携えて。
 なんか胡散臭い方法だけど、僕の心はやっぱり虎徹さんを信してるから。
 どんなに言葉で否定したところで、もうごまかしきれない。
「バーナビーっ、今だ!」
 ああ、やっぱりあなたは僕の……っ!

 決着は、あっけないほど簡単についた。
 すべては虎徹さんのおかげだった。
 そして僕が「虎徹さん」とそう呼んだだけで、彼はひどく幸せそうに笑った。
 なんというか、もう。
 か、かわいい…っ!
 ちょっと反則だ、その顔は。
 てか、さっきの虎徹さんはひどくかっこよかったし。
 もう、僕の頭の中は「かわいい」と「かっこいい」が交互に去来してぷちパニック状態だ。
 凶悪な連鎖に身もだえするバーナビーは、ごまかすのに必死でやっぱりちょっとツンぎみにな
ってしまうが、それでも前のような刺々しい言葉は出てこなかった。
 僕は虎徹さんに抱きつきたいのを、文字通り歯を食いしばって我慢した。
 何度、心の中でギューッとしたかわからない。
 シュテルンビルト中が祝賀ムードに沸いている中、英雄として一番注目を浴びているバーナビ
ーは、まったく違うことに気を取られていた。
 きっとインタビューでも、そつなく返答を返しつつも、常に視線はわき役のおじさんにホール
ドアップしたままだったに違いない。
 とにもかくにもバーナビーは、その手で両親の敵を取り、揺るぎないKOHへの道へと一歩足
を踏み出したのである。


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