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禁忌の戒め2

 ある寒い冬の日、ルークがなかなか起きてこなかった。
 今日はナタリアと一緒に施設慰問
の予定で、久々の三人での公務に、
 ルークははりきっていたはずだ。
「あら?今日はルークは一緒じゃないのですか?」
 朝食のテーブルにつくと、母親のシュザンヌが聞いてきた。
「おはようございます、母上。今日は、まだ見ておりません。
 こちらに先に来ているかとも思ったのですが」
 本当のことだった。
 いつも起きると喧しくまとわりついて、
 朝食のテーブルにつくまではしゃぎっぱなしなのが常なのだ。
 たまに、出かける先が違って起きる時間が違う時もあるが、
 それでもアッシュがごそごそやってると大抵起きだしてじゃれついてくる。
 それが、今日はまったく反応がなかった。
 すこし部屋の外で待ったが、
 もしかして腹をすかせて先に朝食に来ているかと考えて
 こうしてやってきたのである。
「今日は仕事もありますし、では起してきます」
「お願いね」
 席を立とうとしたアッシュに、メイドの一人が
「私が行ってまいりましょうか?」と声をかけたが、
 少し考えて首を振った。
 なんとなく異変を感じていたのかもしれない。
 中庭を横切り、すこし早足になりながら二人の住む屋敷に向かった。
「おい、寝ているのか?」
 軽くノックして、アッシュは様子を伺った。
 しかし、反応はない。
「入るぞ」
 部屋に入ると、底冷えのするその空間からは人の気配がしなかった。
 外はすっかり明るくいい天気だったが、分厚いカーテンが暖かな陽光を遮り、
 部屋の中は真っ暗で空気が冷たかった。
「ルーク、まだ寝ているのか?」
 人の気配は感じなかったが、大きなベッドの隅のほうに
 一人分の盛り上がりが見えた。
「いつまで寝てるんだ、もうナタリアが来てしまうぞ」
「……」
 ようやく、塊が動いた。
少しほっとして、アッシュはベッドに乗りあがるようにして
 ルークの顔を覗き込んだ。
 うっすらと目を開けて、
 ルークはアッシュの顔を見ると少し困ったような顔で笑った。
「お前……」
「ごめん、アッシュ」
 アッシュは、無言で踵を返すと
 すっかり火の消えた暖炉に、薪をしこたま放り込んで火を起こした。
「大人しく寝ていろ、すぐに医者を呼ぶ」
 シュンとなったルークをおいて、アッシュは足早に部屋を後にした。



 いきなり高熱で倒れたルークが、ようやく普通の生活に戻れたのは
 それから一週間ほどたってからだった。
 なかなか熱が下がらず、シュザンヌにはそれこそ身を細らせるほどの
心配をかけた。
「ごめんな、アッシュ。結局ナタリアにまで迷惑かけたし」
「お前ははしゃぎすぎるからそうなるんだ。母上にまであんなに
心配掛けて…」
 それは本当に反省している。
 シュザンヌは自分も身体が弱いのに、ほとんど毎日屋敷を
 訪れ、ルークを見舞っては優しい声をかけてくれた。
 ルークの看病をするといっては、アッシュを困らせていたことも
 おぼろげながら覚えている。
「ごめん」
「お前が元気になることが、母上には一番の薬だ。いいな、今日までは部屋からでるなよ」
 そう言って、アッシュは立ちあがった。
「え、アッシュどこいくんだ?」
「下の町までちょっとな」
「あ、町にいくなら俺も行きたい!」
「だめだ!人の話をちゃんと聞いてたのか?」
「でも、もう大丈…」
 言いかけたルークを、アッシュは有無を言わさず睨みつけた。
「…大人しくしてマス」
 しおしおとうなだれるルークに、
 アッシュはようやく頷いて扉を開いた。
「ちぇ〜、アッシュのけち…」
 ほんとーに小さい声で呟いたのに、
 ルークはもう一度アッシュにすごい顔でぎろり、と睨まれ
 首をカメの様にすくめる羽目になった。

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