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禁忌の戒め1

 生きては戻れぬ覚悟で赴いた戦いから、
 つい先日帰還した。
 すっかり葬式まで済まされて、成人の儀まで
 仰々しく行われた手前、なんとなく帰りづらくもあったが
 泣き崩れて喜ぶ母親の姿をみると、しみじみ帰ってきて
 よかったと思った。
 あの日から数年たっていたのは、この身体を再構築する時間だったのか
 詳しくはわからない。
 ともかく、気が付いたらあの渓谷に佇んでいた。
 すぐ傍らに、気配を感じて振り向くと完全同位体である彼の姿もあった。
 しばらくはお互いの顔を、まじまじと確認しあって無言のまま
 茫然としていた。
 そんなとき、どこからか澄んだ歌声が聞こえてきた。
 聞きなれた美しい歌声。
 この声を知っている。
 ふらふらと声の方へと歩いていく。
 約束をしたのだ……
 必ず帰ると。
 いかなければ……
 後ろから、気配が付いてくるのがわかった。
 一度は混ざり合って、一つになった存在。
 同じように懐かしく思っているのかもしれない。
 歌声が、ふいにとぎれた。
 さくっと、地面を踏む音が静かに響く。
 帰ってきた。
 俺たちはここに。
 生まれてきた意味を探し続けて、そして
 今度は、間違いなく自分の生を生き抜くために。
 戦いの最中、ずっと思い続けていた。
 生きたい……
 叶わぬ願いと知りつつも。
 でも、
 今度こそ、生きられる。
 生きていてもいいのだ。今度こそ。

 このとき、俺はそう思っていた……


 帰ってきて数日は、ジェイドの勧めもあってすぐにベルケンドへ行き、
 精密検査を行った。
 また大爆発や音素乖離の兆候でもあったら、
 元も子もないからである。
 さすがに少し心配ではあったが、幸い結果は良好で
 どちらの兆候もないとのことであった。
 そうなると、周りの対応は早かった。
 これから公的な仕事をするためにも、あって邪魔になるまいと
 さっさと二人揃って子爵の爵位を与えられ、盛大な式典が行われた。
 また、さすがにもとの部屋には二人は住めないので、
 公爵邸の敷地の横に新たに別邸を建てた。
 別邸といっても小さなもので、中庭で繋がっているので
 部屋が大きくなっただけともいえる。
 一緒の屋敷に住むことにアッシュが反発するかとも思ったが
 思いのほか容易く納得してルークを驚かせた。
 一度溶け合って、一つの身体になった時
 お互いの記憶が混ざり合いそれぞれの苦悩を分かち合い
 納得できないまでも、お互いの存在を認める結果にはなったようだ。
 なかなか素直にはなれないようではあるが……
 

 そんなこんなで、2か月がたち落ち着いてくると、アッシュは
 すでに公的な仕事をこなし、貴族としての晩餐や式典もソツなく
 こなすようになっていた。
 ルークはと言えば、アッシュの仕事についていったりはするが、
 それ以外は、もっぱら家庭教師をつけてのお勉強の毎日である。
 なにしろ、20歳とは形だけで肉体年齢は17歳で、本当の年齢は
 7歳なのだ。
 全然教育が足りてない。
 アッシュ曰く、貴族としての礼儀もなってない!
 というわけで、毎日毎日お勉強させられていたのである。
 当初、ルークはそうそうに投げ出すだろうと踏んでいたアッシュは、
 思った以上にまじめに勉強してるのに驚いた。
 半年もすると、普通の17歳程度の学力や知識に追いつき
 これで、堂々とアッシュと仕事ができるな、と
 ルークが嬉しそうに笑った。
 ルークはルークなりに、自分がいろいろと器用にこなせないことに
 コンプレックスを感じていたようで、
 勉強一つでそれが解決するわけでないにしろ
 すこしでもアッシュに近づけたことが嬉しくてしかたがないのである。
 アッシュは、徐々にルークとともに行動することが増えていった。
 一人のほうが、効率がいいこともあるが、
 レプリカ関係の仕事や、援助の話し合いなど
 ルークがいた方がスムーズに事が運ぶことがままある。
 そして、
 なにもかもが穏やかに、そして幸せに、
 あれから一年の時が、何事もなく過ぎていったのだった。


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