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やさしい兎狩り3

 わかってしまえば、簡単だった。
 あの数々の不可解な出来事はバーナビーの心の動きと連動している。
 もちろん、あのうさぎの夢もそうだ。
 バーナビーの孤独さと心の不安定さを物語っている。
 そしてその心がひどく揺れた時、虎徹にとんでもない弊害がでるというわけだ。
 果たしてこれはどちらの能力なのか?
 バーナビーが自らの心を相手に反映させたのか、はたまた虎徹が相手の心を己に反映さたのか。
 そしてこれは、全ての能力を100倍にするという能力の延長なのか、また別の能力の発動に
よるものか……
 その辺のところは実はわからない。
 けれどこの能力のコツさえ分かってしまえば自己防衛できる分、前回のような無様なことには
めったにならなかった。
 引き際と、押しの絶妙な判断ができるため、バーナビーの天の邪鬼な返答に振り回されること
が少なくなったからだ。
 一歩間違うと先日の二の舞だから、虎徹も必死である。
 あの日は本当にさんざんだった。
 虎徹が救急車で運ばれたあの日……
 心配のあまりバーナビーの精神状態がいつまでも落ち着かず、よって虎徹の症状は一向に回復
せず、それがまたバーナビーの心を乱れさせることになり、よって虎徹の……
 という、とんでもない魔のループに陥った。
 あれは悪夢だった。
 授かってしまった能力は、もはやどうにもならない。
 こうなればうまくつきあっていくしかないのだ。
 さて、今日はバーナビーに書類仕事を肩代わりさせてしまったので、すこしご機嫌斜めだった。
 お陰でさっきから気持ちが悪い。
 しかもお詫びに夕飯にチャーハンでも御馳走しようと話を振ったが、バーナビーはまったく鼻
にもかけない様子であった。
「結構です、どうして僕がわざわざ……」
 いかにも迷惑だと言わんばかりに溜息をつくバーナビーに、たぶん数日前の虎徹なら「人がせ
っかく手料理をごちそうしてやろうと思ったのに!」と憤慨するところである。
 けれどそこで一呼吸おいて、じっとバーナビーを見た。
 気分が浮上してる。ってか、むしろこの感覚はワクワク…みたいな?
「よし、決りだなっ!じゃ、外で待ってるから、早く用意して帰るぞー」
 と、バーナビーの返事を聞く間もなく部屋を出て行った。
「あっ、ちょっとっ!!待っ…」
 慌ててバーナビーが扉の向こうに消える虎徹を呼びとめようとしたが、あまりに早い退場に手
も足もでなかった。
「まったく、どうしてあの人はああ強引なんだ」
 バーナビーはしばらく呆然としていたが、仕方がなさそうに仕事の後片付け始めた。
 ぶつぶつと文句をいいながらも、その手はどこかイソイソと落ち着きがない。
 一方、廊下に出た虎徹は胸に手を置き、
「よし、間違ってないな」
 と文字通り胸を撫で下ろしていた。
 バーナビーの機嫌がいいのが手に取るように分かって、虎徹にとってそれは至福の瞬間でもあ
る。
 最近気がついたこと。
 バーナビーの機嫌がいい=虎徹の幸せゲージが上昇。
 みたいな図式が出来上がっている。
 果たしてこれは、どちらに都合のいい現象なのか。
 虎徹ははじめ、なんだかバーナビーの心を覗いているみたいで申し訳ないと思っていた。
 けれど、バーナビーの心の動きは複雑怪奇で、しかもすぐに破綻をきたす。
 コントロールできない心に振り回されて、それはまるで自傷行為のようだった。
 けれど虎徹が先回りできるようになると、それら危なっかしい数々の不安定要素のいくつかは
解消されて、バーナビー自身苦しみから解放されているようでもあった。
 だから、虎徹も開き直ることにしたのだ。
 要はバーナビーが幸せだと感じてくれるなら、おじさんがすこしくらい思い通りに動いてあげ
てもいいんじゃないかと。
 どこまでもバーナビーに甘い虎徹であった。



 今日もバーナビーは、おじさんの思惑どおり笑っている。
 その大きく広げられた腕の中にまんまと囚われている。
 ぽつんと、たった一匹で寂しそうに背を向けていたうさぎはもういない。
 広い草原の中で、昏い穴に飛び込んだりすることもないだろう。
 うさぎを捕らえたのは、やさしく張りめぐらされた罠。
 罠にかかったうさぎは、けれどいつも幸せそうで。

 おじさんの得意技、それはやさしい兎狩り……



   おわり


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